Rethink 夫婦の時間 二人のこと、もう一度。

その喧嘩、見直しませんか? 夫にイラっとしても、怒らずに解決する方法。

夫婦生活を続けているといろんなことが起こるのは仕方のないこと。しかし昔と今を比較せず、今の夫とどういう関係を結びたいかを考えることから始めるべきだと、以前のインタビューで語ってくれた、精神科医・名越康文先生。しかし、どうしても許せないことや直してもらいたいことがある時はどうすれば…? そこで夫婦の正しい喧嘩の仕方を、名越先生に聞いてみました。

ケンカをしなくとも、
感情的にならずに解決できる

編集部 あんなに愛していた夫なのに、夫婦生活が長くなると、イライラしたり、ストレスを感じることが多くなったという話をよく聞きます。「どうして〇〇してくれないの?」「私ばかり負担が多いんだけど!」とついつい怒ってしまい、険悪なムードになることもしばしば。言っても改善されないし、関係は悪化するばかり。でも言わずにはいられないことも。正しい喧嘩の仕方ってあるのでしょうか?

名越先生 正しい喧嘩の仕方はありません。喧嘩のことを心理学では権力闘争とも呼びます。喧嘩してもそのこと自体が解決に繋がることは稀です。アドラー心理学をご存知ですか? オーストリア出身の精神科医、心理学者のアルフレッド・アドラー氏が提唱した“幸せになるための心理学”では、感情には必ず目的があるとしています。その中でも怒りの感情は、支配したい、優位に立ちたいなどの目的から生まれるもので、相手と建設的な話し合いが生まれる可能性は低い、と言わざるを得ないのです。相手を傷つけるために怒りの感情を使っているということに気づくことができたら、その感情を一端脇に置いてみることがきっと出来るようになると思います。

おもんばかってもらうことが
愛だと勘違いしている。

編集部 たしかに優位に立ちたいと思うことあります。でも自分の感情を抑えることってなかなか難しいんですよね。

名越先生 それは家に帰るとみんなどこか幼児化してしまうからかも知れません。だって仕事相手には「どうして〇〇してくれないの?」「私ばかり負担が多いんだけど!」という乱暴な言葉は使いませんよね。普段だったら「申し訳ないけれど、これをこうしてもらえますか?」と相手に配慮して伝えているはずです。つまり無意識のうちに外では大人、家では子どものスイッチを切り替えているんです。それは何も編集さんだけではありません。人格が優れた人にもそのスイッチはあります。その理由は、おもんばかってもらえるのが愛だと思っているからです。

編集部 おもんばかるとは、相手のためにあれこれ思いをめぐらすということですね。

名越さん そう、そうしてもらうことで初めて大事にされている、おもんばかってもらう、察してもらうことが愛情だと無意識に思い込んでいる方は編集さんだけではなくて、実はかなり多いはずです。しかしお互い全く異なる生活習慣に生まれて育ってきたので、何も言わずにおもんばかってもらうことは実はかなり難しいことなんでです。相手はこうあるべきだと、知らぬ間に自分の物差しで測ってしまっているのが人間です。でも大事なのは、相手に自分が耐えられないこと、直してもらいたいことを伝えて、二人の理解が進むことですよね。もしもそうであれば、そのために必要なことは感情的にならず、相手に要求が通るような主張の仕方を学んで実践することです。たとえばあなたが今旦那さんに直してもらいたいことがあり、それを言うとしたら何て言いますか?

編集部 「自分で使った食器くらい洗ってくれないかな?」ですかね。

名越先生 食器を洗ってほしいんですね。それなら食洗器を買うという解決策ではダメですか? それが難しいなら曜日ごとに担当制にするとか、まず提案してみる。夫に提案してみたことはありますか?

編集部 ないです。いつも「話したいことがあるんだけど、今夜時間作ってもらえる?」とか言っても、うまく避けられて話し合えたことがないんです。

名越先生 それじゃあ、旦那さんは嫌がりますよ。その言い方だと、相手はダメ出しされたり命令されたり、絶対に自分にとって良いことではないと察して警戒心を持つでしょう。だったらどうしますか?

編集部 食事に誘って、途中から話し始めるとかですかね…。

たった1度の成功体験が
今後の夫婦関係を変える。

名越先生 それもいいですね。こちらからの提案なんだから、まずはいつもより少し下手に出ることが必要ですね。

編集部 でも、自分が下手に出るのはなんだかしゃくで(笑)。

名越先生 みなさん、その下手に出ることに抵抗があるんですよね。下手、というのは分かり易い表現としてそう申し上げたまでで、本意は、相手を尊重して丁寧にお願いしてみようということなんです。「お疲れのところ申し訳ないのですが、ひとつだけ聞いてほしいことがあるので、今夜少し時間とってもらえませんか?」と言ってみては? 

編集部 あえて丁寧な言い方で伝えるんですね。

名越先生 すると相手は何事だろうと思って受け入れてくれかも知れませんよ。何が原因かを考えることに飽きたら、どうすればよりよい生活ができるかを考えてみてください。人間は一人一人は弱くても、協力できれば素晴らしい力が出るものです。勝ち負けこだわるのはやめましょう。優位に立ちたいと言いますが、たとえ勝てても協力し合えなければ結局良い結果は得られません。

編集部 確かにそうですね。

名越先生 ただし、気を付けることがあります。最初が肝心なので、まずは相手の損が少ないことから提案してみること。彼の気質・性質をつかんで、これだったら受け入れてもらえる・相手にメリットがあるという案件を選ぶんです。まさに戦略ですね。その1回の成功体験は大きいです。自分は旦那とちゃんと交渉することができる、そして旦那は交渉に応じてくれる懐のある人間だということがわかり、良い連鎖が起きてきます。


夫婦の関係性が良くなれば、今まで絶対に言えなかった許せないこと、直してほしいことも受け入れてもらえる可能性が高まるとか。名越先生に教えていただいた、下手に出る交渉術を身につければ、旦那さんにイライラすることもなくなり、ストレススリーな生活が送れるかもしれません。

名越康文さん
なこし・やすふみ●1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。近畿大学医学部卒業後、現・大阪府立精神医療センターにて精神科救急病棟の設立、責任者を経て、99年に退職。現在はテレビ・ラジオでコメンテーター、雑誌連載、講演会、映画評論、漫画分析などさまざまな分野で活躍中。「SOLO TIME~ひとりぼっちこそ最強の生存戦略である」(夜間飛行)など著書も多数。公式HP http://nakoshiyasufumi.net/